【SPECIAL】Flying B 発売記念インタビュー


Chapter1

『Flying B』

「腹も立つし、悲しいこともムカつくこともいっぱいある。そこで、ああだのこうだの言っていても始まらないから。一番大事なのは人にどう思われるかじゃなくて、やっぱり自分でスジが通っていると思えるなら、その道でいいんだということ。そこに自信を持てることが一番大事なんじゃないかなっていう。そこで選択を間違えたら…自分の中に後ろめたい気持ちがあったら、結果がどれだけよくなろうが、その時点でアウトだと思う」


 2016年正式に自主レーベルFlying B Entertainmentを始動させたAK-69。この発言は、独立後第一弾となるレーベルと同名のシングル『Flying B』のリリース・インタビューから抜粋したものだ。


 このインタビュー時、AK-69は『Flying B』のリリースと2月27日開催の豊洲ピットでのワンマンライブを視野に、いつも以上に忙しなく動き回っていた。『NON FICTION』と銘打たれた一夜限りのこのライブが、AK-69の新章を告げる重要な意味を持つものであることは言うまでもない。『FOR THE THRONE(王座への道)』を掲げ、全国13箇所、2万5千人を動員した日本のヒップホップ史上、前代未聞の規模のホールツアーを終えて以降、最初のワンマンであり、また自主レーベル立ち上げ後、初めてのワンマンでもあるのだ。


「あのホールツアー自体、AKがやるんだから、どうせ楽勝で成功するんでしょくらいの空気がありましたけど、実際は開催が危ぶまれた公演もあった。そういうことを一つとっても、これからはライブも制作も、金銭的な損益のことまで全部自分たちで計画を立てていかなきゃいけない。やっぱり現状の予算とか、ものすごく現実的なことが襲いかかってくるわけですよね。MSは俺にすごい予算をかけてくれていたんだなと、もちろん改めて思うようなこともたくさんありました。でも、それで守りに入ってしまったら、俺たちが戦いに出た意味がねぇなと。やっぱり賭けに出た以上はやらないと。俺たちは一か八かの博打をしているわけじゃない。これは勝つための博打なので。迷ったり、悩んだ時…最後の選択を決める瞬間は『俺たちは戦いに出たんだから、こっちを取る』という。いつもそこですね。そうやって踏ん張ってきましたから」


 ここでAK-69が話す「迷ったり悩んだ時に『俺たちは戦いに出たんだから、こっちを取る』」。その意味はそのまま冒頭の発言につながる。つまり「自分がスジが通っていると思えるなら、その道でいい」ということだ。


 「さらなるインディペンデントを求めて、俺はあえて険しい道を選ぶんだて」


 AK-69の新章を告げる挨拶代わりとも言っていい動画「Beginning of Flying B」の中でAKはそう言う。「あえて険しい道を選ぶ」はAKがこれまで揺らぐことなく貫いてきた人生哲学(まさにイズム)だ。だが、こう書いてみたところで、それは決して「これまでそうやって上手くいったから、次もそうなるに違いない」というレベルの生やさしい選択ではない。


「一言でいうとだいぶ過酷な選択ですよね。『個人事務所を立ち上げた』というと、みんな『儲かるのかな』みたいな。なんか売れている芸能人が自分の事務所立ち上げたみたいなイメージで、『取り分に走った』的な。そういう印象を受けた人もいるかもしれないですけど(笑)。ただ、それだったら、独立という道では全然なかった。言ってみれば、武道館で演ったわけだし、別にそれをキープすることも全然成功と言ってもいいですからね。でも、なんか、もっとそれ以上を目指してて、やっぱり簡単に言ったらドームでライブできるくらいのアーティストになりたい。そのレベルでものを考えたときでも、それはそれでもっと楽な道を用意してくれそうな話が正直あった。結果としては、より大きなステージに立つのが夢でもあるし、それは凄い悩みましたけどね。少なくとも、そっちの方が最短だろうという具体的な選択肢があったわけですから」


 だが、AK-69が悩んだ末に出した結論は、ここまで繰り返し書いてきた通り、イズムを貫いた険しい道のほうだった。


 では、なぜAK-69はみずから過酷な道を選択したのか。AK-69の過去の足跡を評価し、自分のイメージする成功の舞台を用意するという声がかかってさえ、そちらを選ばない理由。それは単に「イズム」だからで納得できる話ではない。だが、この理由こそが、実にAK-69のAK-69たる究極の所以といっていい。


「口で言うのは簡単ですけど、いざ自分が当事者で、もしかしたらこのまま撃沈して、現状維持すらできないかもしれない。そういうリスクを前にして、大きなステージが約束される選択肢を蹴るというのは、物凄く勇気を要する。だから、今回は本当にただの独立とは違う。こういうドラマがあったというのを、俺が1から10まで説明するわけではないですからね。ただ、そのドラマを口にせずとも、ヴァイブスが曲に滲み出るということはあると思うんですよ。見えないなりに、なんか気迫が凄いと感じる」


 そうなのだ。「歌」「音楽」「言霊」…どう表現すればもっとも正確なのかわからないが、それらが渾然一体となったレベルミュージック。ストリートで得たブラッド・マネーを捨てて、ガソリンスタンドのバイトに身を投じた時から、AK-69がまさに身命を賭して来たのは、自分の信じるレベルミュージックのためだったと断言していい。それを失えば、代わりに何を得ようが、それはもうAK-69ではないのである。だからこそ、その言霊を失わないために、AK-69は「険しい道」を、「逆境」を選ばずにはいられない。


「ただ人気や認知度が上がったとしても、俺の真髄である反骨心に溢れた曲の牙が抜けてしまえば、今まで歌っていたことをあんまり歌えなくなるかもしれない。『おまえ、歌でああ言ったやん』てツッコミが入らんかなと思ったら、勝手に自分の心の中でブレーキがかかってしまうので(笑)。いつも言っているけど、聴いた感じ熱い曲、男くさい曲みたいな〝ぽい〟ことは、それこそアイドルでもできる。それでも、言霊が宿るか宿らないかで、その類の曲の精度というのは雲泥の差がある。言霊が宿っていなければ、どれだけ音楽的に優れていようが、ライミングが優れていようが、メロディが優れていようが、クソなんですよ。別に嘘だから。それは誰でも言えるじゃんっていう話で、一気にその曲の破壊力はゼロに近いものになる。だから『Flying B』は、あえて険しい道を選んだ状況だからこそできた曲ですよね。Flying Bの〝B〟はB-Boy、Bad Boy、B級のB。それをコンセプトに、華々しいところは何もないところから出発した俺たちの歌」


 そして、これまで『IRON HORSE -No Mark-』を始め、『SWAG IN DA BAG』や『START IT AGAIN』といったAK-69の代表楽曲を手掛けてきたプロデューサーのRIMAZIとの久しぶりのマッチアップは、楽曲の誕生早々に一つの奇跡を生んだ。

 2015年末に、ボクシングの3階級制覇したチャンピオン八重樫東のタイトルマッチにおける生ライブである。これまでも10年以上、B-NINJAH&AK-69の『Move on』で入場していた八重樫東。背水の陣で挑むタイトルマッチを前に、AK-69がまだ出来上がったばかりの『Flying B』を送ると、八重樫東は泣きながら「この曲でやってほしい」というオファーの電話をくれたのだという。なぜ、そうオファーしたのか。それを説明するのは野暮というものだろう。ただ宿った言霊が触れたのだ。AK-69はフジテレビの中継の入るステージで、まだ世に出ぬ『Flying B』をライブし、八重樫東は血で顔を染めながら死闘を制した。


「俺の歌は、そういう、大なり小なり自分の課したステージの上で戦っている人に響く本当の歌であって欲しいっていう。それが俺が思う本当の歌っていうか、音楽なんじゃねぇかなって思ってますけどね」


 ただ本当の歌を歌うために、AK-69が歩みを止めることはない。「やっぱり自分でスジが通っていると思えるなら、その道でいい」。冒頭のAK-69の言葉の通りである。次は『Flying B』のカップリング『We Don’t Stop』について書きたい。(※文中敬称略)


Text by Bundai Yamada




Chapter2

『We Don’t Stop』

「こんなものかなと思ったら、こんなものになってしまいますから。やれんくなってからあがいても仕方ないんで、やれるうちにどれだけやれんのかってことだと思う。いつでも攻め続けたいとは思っていますけどね」


 AK-69がそう言っていたのは、100本のエース・オブ・スペードのボトルがフロアをきらびやかに照らす『A Hundred Bottles』のMVの撮影現場だった。キャリア史上最大規模の、そしてインディーズのHIP HOPアーティストとしては日本初となる全国13カ所で開催されたホール・ツアー“FOR THE THRONE”を終えてまだ間もない夏の初めだったと記憶している。

 この『A Hundred Bottles』のMVが公開されたのが2015年の7月。その2カ月後の9月には自主レーベルFlying B Entertainmentの設立を発表。その時期に、“FOR THE THRONE”のファイナルの模様を収めた映像作品『HALL TOUR 2015 FOR THE THRONE FINAL-COMPLETE EDITION』を先行して配信リリースし、この作品が2016年に元旦にDVD作品として改めてソフト化しリリースされたのはまだ記憶に新しいだろう。こうして活動の流れをサラッと紹介するだけでも、AK-69が、インタビューで自分を飾る美辞麗句として「いつでも攻め続けたいと思っている」と語っているのではないことがよく理解できるに違いない。

 さらに付け加えれば、前代未聞・空前のホール・ツアー“FOR THE THRONE”を一つとっても、「スポットライトに照らされ、ただ華々しいステージの上で圧倒的なヒーロー像を披露し、幕を閉じたのだった」と簡単に紹介できるようなものではなかった。その話を振り返るたびにAK-69が悔しさを滲ませる、ツアー後半の「声が出なくなった夜」などは、その象徴だろう。


「一言でいえばプロとして失格。プロとしてステージに立って、俺にとっては13回のうちの1夜でも、お客さんはどこの会場でも同じ金額のチケットを握りしめて、1年に1度見られるか見られないかという中で、時間を作って来てくれている。それなのに自分のコンディションが悪いから今こうなってますなんて、お客さんは、そんなこと聞きたくないですよね。そんなこと言ったらダメだと思ったし、だから言えなかったですよ」


 すべてのライブを終えた後、AK-69はこれまで見せたことがないような表情で、当時の心情を吐露した。そして、そうなった理由も、3時間歌いきるために「ジムに通って、サーキットトレーニングで心肺機能もあげて、コンディション整えてきてた」という立ち止まれない日々の中での〝オーバーワーク〟ゆえだった。

 声が出なくなってしまったライブについて、知らない方のためにもう少し補足すれば、AK-69はそれでも歌うのである。


「もはや誰の目にも俺がおかしい状態は明らかだった。着替えのインターバルの時に、スタッフから『曲を削ろう』と言われたんですけど、ただ、さっきも言ったように、お客さんはその一夜のために来ている。全部が完璧というわけにはいかないというのは、こっちの理屈ですからね。だから、フルセットで行くと言って。ただ、これは美談みたいに聞こえたら困りますけどね。単純に俺の管理不足なんで(苦笑)。結果、後半は目も当てられないくらいの状態になってる曲もあったし、まったく満足はしていない。ただ、とにかく歌って、そこでお客さんにもらえた気持ち、引かずに挑んだという自分の気持ちがあって、栃木のファイナルに必要なピースをもらえた」


 このように、AK-69の「いつも攻め続けたい」という言葉は、もはやAKの生き様そのものであり、ただそうありたいという「ファンタジー」であったり「思い」だけのものではない。これはAK-69自身は書いて欲しくないことなのかもしれないが、「2014年の武道館を終えた後、さすがに1カ月くらい休みを取ろうという話になったのに、2週間後には『もういい』と次のヴィジョンに向けて動き始めていた」とスタッフサイドが苦笑まじりに打ち明けてくれたことがあった。筆者も思わず、「AKさんは回遊魚ですね」と苦笑して同意してしまった。多分、休むことが怖いのだろう。回遊魚とは泳ぐのを止めたら、死んでしまう魚のことだ。 


 新曲『Flying B』の“B”面『We Don’t Stop』はタイトルからもわかるように、「いつも攻め続けたい」という生き様そのものの歌だ。フィーチャリングに、ニューヨーク、ブロンクスのレジェンドFat Joeを招いての楽曲。


「裏がFat Joeかよっていう話ですけどね(笑)。この曲はニューヨークにいた時に、一番初めに繋がったRyan Leslieのマネージャーから連絡があって、Fat Joeのアジアでのツアーの流れで、日本でプロモーションができないかと。それで、こちらが動いたことに対して、気持ちで応えてくれて『一緒に曲をやりたい』と。ありえない条件で快諾してくれた。ただ、俺がファンだからとヴァースを金で買い取るような話ではなく実現できたのは嬉しかったですね」


 活動の拠点をさらにインディペンデントに掘り下げる過程で、ニューヨークのレジェンドとの曲を実現してしまうというのは、いかにもAK-69らしいエピソードだが、この話には続きがある。今月の27日(もう2日後である)に開催される、豊洲ピットで開催される一夜限りのワンマンライブ「NON FICTION」のリポートの打ち合わせを、Flying B Entertainmentのスタッフとしていた時のことだ。つまりライブまで、既に1カ月を切っている状況下である。


「Fat Joeから直接AKに連絡が入って、Remy Maとの楽曲『All the way up』のMVを撮影するからAKも出てほしいというオファーがあった。AK自身『一瞬映り込むくらいだろうけど』と、自分の楽曲にマイメン感覚で参加してくれたこともあったので、ワンマンのリハの合間を縫ってニューヨークに行ったら、メインカットの撮影オファーだったんですよ」


 撮影風景の写真を見ると、リップするFat Joeの後ろにAK-69が立ち、その背後にはヘリと高級車が並んでいた。ちなみに『All the way up』の客演はFrench Montanaである。 

 『THE THRONE』の前作、『The Independent King』のインタビューは、まだニューヨークにいたAK-69とSkypeを通じてのインタビューだった。だが、AK-69は「ニューヨークの真の成果が作品が出たのは、ニューヨークで生活している中で作った『The Independent King』ではなく、『THE THRONE』だと思う」と『THE THRONE』のリリースインタビューで答えている。アルバムの先行シングル『Oh Lord』で、Fabolousとのコラボが実現したのもその一つだなどと、今更書くのはもはや無粋というものだろう。

 このように、AK-69が進化(深化)し続けている話、「攻め続けている」エピソードを書くのには困らない(もっともそうであることこそが、本質的なアーティストの真価というものだろうが。つまりすなわち“ここにいることが証拠”といえるだけの「今」「ここ」を常にキープすること)。

 以下の文章はAK-69のアーティスト宣伝用、いわばメデイア対応のために書いた文章だが、一般公開しても問題がないように思うので(大半は表に出ているエピソードをまとめたものだ)一部要約しよう。


「AK-69の最近の躍進を紹介するのには枚挙にいとまがない。2年連続プロ野球選手の入場曲No.1アーティストに選出されたのもその一つだろうし、いま乗りに乗っている世界最速で三階級制覇を達成したボクサー、井岡一翔が入場曲に使ったこともその例に漏れないはずだ。こうした文章を書いている最中に、NHK『サタデースポーツ』内で体操の内村航平選手を支えた1曲として「IRON HORSE-No Mark-」が紹介された。このようにトップアスリートが彼の曲を選ぶことと、AK–69の音楽の魅力は本質的な関係がある。インディーズである以上、それはタイアップやコネクションの類の話ではない。シンプルに闘争心が掻き立てられる音楽だからこそ、彼の音楽は選ばれているのだ。「一流は一流を知る」といえば、AK–69自身は「自分は音楽の才能で突出した才能を持っているというタイプではないと思う。その分生き様プラスが自分の持ち味」だと自己分析し、“一流”と評されることをやんわりと否定するだろう。だが、表現の中に「生き様」をプラスして人の胸を打つ作品をクリエイトできるのは、あるいは超一流の条件なのではないか」


 そのように原稿を締めようと思っている時に、飛び込んできたのが『MTV VMAJ 2015 "BEST HIP HOP ARTIST”』を受賞したニュースだった。


 冒頭の、アルマン・ド・ブリニャックをずらりと並べたきらびやかな『A Hundred Bottles』のMVを撮影したTomoya Egawaが次に撮影したのが、新曲『Flying B』のMV。過去最大規模の撮影だったというが、インディペンデントを突き詰めながら過去の規模を更新し、それが100本の超高級シャンパンではなく、3トンの雨を降らせての撮影だったというのも、また実にAK–69らしい話だ。「明け方の寒い時間に気持ちの乗るシチュエーションだった」(AK-69)とのことだが、寒いのは時間帯だけでなく、そもそも季節は真冬である。雨はまさにこれから往く険しい道の象徴であり、これもまたAK-69の『We Don’t Stop』=「攻め続けたいという思い」の決意の表現に違いない。


Text by Bundai Yamada


Chapter3

『NON FICTION』


「7割くらいバンドでやる。既存の曲をバンドでやるので、また違う見え方になると思うし、すごい楽しみですね。ストーリーテリングも入って、俺にしかできないという意味でも、今までとまた違うタッチのライブになると思います」


ーーバンドのメンバーの構成は?

「バンマスまで含めて若いアーティストで固めています。なおかつヒップホップとかブラックミュージックが好きな人間。そして、もちろん演奏が上手いこと、それが必須条件ですかね。みんなのアティテュードが揃っていることに助けられてますよ」


ーー前回の『FOR THE THRONE』のツアーは、日本全国13カ所を回るという大規模なライブでしたが、今回は2月27日の1日のみですね。

「最初は2デイズという選択肢もあったんですけど、これが第2章の幕開けになるので、あえて“1日限り”という形で、来られた人の特別感を煽りたかったんですよ。自分たちで制作するという点では、結局今までと何も変わらないんですけど。バタバタですけどね(苦笑)。でも、すごいワクワクもドキドキもしています」


 これは正月休みが明けて早々の、2016年最初のインタビューの一コマだ。「NON FICTION」と銘打ったライブだが、AK-69のショウビズがこれまでノンフィクションでなかったことはない。そう考えた時、かつて行ったAK-69のインタビューの記録を読み直すと(雑誌などのメディアにまだ出ていないものがたくさんあるのだ)今回のショウケースにつながるような発言をいくつか見つけることができた。

 以下のインタビューは2015年の3月、『FOR THE THRONE』のツアーの期間中に行われたものだ。


「CDを買うのもそうだしライブに足を運ぶのもそうだけど、ドラマを知ること自体もエンターテインメントのひとつ。演る側がイベントだけで見せるのではなくて、ドラマを見せられるようになったら、日本のヒップホップもショウビズとして、もっと変わると思うんですよね。もう少しアメリカっぽくなるというか。日本はそこがまだ小さい感じがする」


 もちろん、まだこの時点で独立の話は一切出ていない。だが、既にこの時、AK-69がイベントとしてのライブだけでなく、ドラマの提示自体をみずからのショウケースに織り込んで見せるべきだと考えていることがわかるだろう。

 そして、以下は2015年7月のインタビューのもの。


「ラップはスキルだけあれば、かっこいい音楽じゃない。音楽性だけがズバ抜けてかっこいいという、そういう音楽はあるし、俺も音楽性だけが突出している音楽に幾度となくやられてきたけど、ラップは音楽性が突出してなくても、人間性とかドラマでかっこいいと思わせられる音楽のひとつだと思う」


 ここで、最後にAK-69はラップは人間性やドラマで見せられる(あるいは「魅せられる」)と言っているわけだが、あえて逆説的なことを書けば、AK-69はここでスキルや音楽性の高さを否定しているわけではない。みずから「音楽性だけが突出している音楽にやられてきた」と言っている通りだ。


 言わば、天性の才能、アカデミックな教育、そういったものの存在が確固としてあるのを認め、敬意を払いつつも、だが、例えそういったものがなくても、みずからの高みに挑み、求め、その局面のすべてを表現できれば、結果としてショウビズの総合力として、それらを凌駕できる可能性をラップというアートフォームは秘めている。ここでAK-69が言わんとしているのは、そういったことではないだろうか。

 言い換えれば、結果のクオリティだけでなく、過程の挑む姿勢。そこまでを赤裸々に提示することで、ただ結果のクオリティだけで勝負するショウビズ業界でマクることができる。昨夜、体操の内村航平選手が、NHK『サタデースポーツ』でみずからを支えた1曲として「IRON HORSE -No Mark-」を挙げていたことに触れたが、まさにノーマークの「地方馬がダービーを制す」瞬間こそがヒップホップのカタルシスであり、また、名馬と思い込まれているダービー馬が実は地方馬であったと世間が知る瞬間こそがヒップホップの持つカタルシスなのだ。

 そして、もうひとつ。


「自分たちが経験してきた横着なことを歌ってホメられる音楽。それがヒップホップという音楽」


 これはもう10年も前に、AK-69がインタビューの最初に放った言葉だ。ここでAKのいう「横着」はあえて、THUGとでも逆に英訳しておこう。「経験してきた横着」は、THUG LIFEとでもいったところか。

 この発言を読めば、少なくともこの10年間、AKが一度も姿勢をブらさずにここまでやってきたことがわかるに違いない。上に挙げた過去の3つの発言は、ほとんど同じことを言っているものだから。だが、酔っ払いの戯言のように、ただ同じ発言を繰り返し、現状を維持しているのでないことは、今のAK-69を見れば明らかだろう。

 聞き直した10年前のインタビューで、AK-69はこんなことを言っている。


「全員に生で見せたいですけど、名古屋から遠い人だったり、クラブに行く環境にない人には、まずDVDでもいいから見て欲しい」と。


 この発言から、当時のAK-69が、まだ地元名古屋とクラブ以外で(つまり全国的にワンマンで)やる環境にない中で活動していることがわかる。だが、周知の通り、その後、AK-69はインディペンデントのまま武道館でのライブを披露し、昨年は空前の全国ホールツアーをやり遂げ、今年、インディペンデントを突き詰めるために、さらなる過酷な独立の道を選んだ。


 明日の「NON FICTION」はバンドでのライブであると同時に、AK-69の語りで進行していくセットになっているのだと聞いた。AK-69という一人のアーティスト、一人の人間、一人の男が、ブレずに勝ち上がってきた真実のドラマ。それはただ輝かしいだけの勝利の歴史ではないかもしれないが、ストラグルしながら生きる日々の糧となり、それを目の当たりにすることで、歴史の一証人として立ち会えた興奮を感じられるライブになるに違いない。


Text by Bundai Yamada


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